小さな愛の行方 1
「橘さん、俺、彼女ができましたよ。生まれてこのかた20年、思えば長い氷河時代でした。そして寂しさと孤独な日々でした。しかし、しかしです、今日を持って僕の氷河期も終止符をうったのです。」 秋の日溜まりの中でぐっすり眠っていた隆は、突然やって来た純に安眠を妨害されたのだった。布団をかぶり眠りにつこうとしている隆の掛け布団を純は強引に捲り上げた。「どうしたんだよ。こんな朝っぱらに…。俺は、眠いの」...
View Article優しい絵描きの詩
菜の花で包まれた線路の上を 子供の心を持ってゆっくり 歩いている絵描きが独り 通り過ぎていく列車には 土の匂いも 花の美しさも 空の青さも知らず 何かに追われて 疲れきった顔ばかり 絵描きは 手を振って列車を見送る 駅ごとに違った風景を 大きなスケッチブックに描く 絵描きが独り 名もない雑草達の 優しさと悲しみとひたむきさが 一枚の絵となって青空に舞い上がる ただ絵が好きだから...
View Article小さな愛の行方 2
純は、バイト先の中華料理店で高村由美と知り合った。由美は、青森県出身という事を知り、同じ青森出身の純と話が合ったのである。恋愛のきっかけなど些細な事から始まるのかもしれない。 「橘さん、脚本の方はうまくいっているんですか?」 純が、隆と義行の下から呻く様に言った。 「まぁな。純愛をテーマに書く。構想はできているんだ。」 「ところで、純愛と言えば女優。女優はいるんですか?」...
View Articleあなたが好きです
除夜の鐘の音が 雪に染まった夜の闇に消えていく この1年間で思い出として輝いているのは 何日あったのだろうか 秒針がゆっくり進む中ふと心を過ぎっていく 過ぎ去った時間の中には いつもあなたの笑顔があった 険しい時間の連続だったけれど いつもあなたの笑顔に救われた いつもは静寂に包まれた神社の境内 今日はいつもと違って華やかな感じがする 新しい年が希望を携えて舞い降りてくる “あなたが好きです”...
View Article小さな愛の行方 3
「青木は、塾でバイトしているし、暇そうなのはおまえしかいないんだよ。早く着替えて山谷に行くぞ」 「いつも損な役しか回ってこないもんなぁ。内田、おまえのバイトと交換しろ」 「代わってあげたいんですけれど、由美ちゃん、僕がいないと悲しむからな」 「そうか、そうか、わかったよ。山谷でもアマゾンでも何処へでもいきますよ。森さん、行きますか」...
View Articleふるさと
天神様の境内に響く 童達の笑い声と歌声 夕焼けの紅につつまれて かんけり・かくれんぼ・いしけり 小さな境内で 毎日毎日 童達は歌を織っていた 四季の風景と手をつないで 神様と言葉を交わしていた 天神様に通じる細道は紅色 年を経るごとに遠くなっていく もう見えない 幼い日々が もう見えない 神様の姿が “ここは どこの細道じゃ 天神様の細道じゃ”...
View Article夢幻 ~パリス旅情~ 7
オセロー美術館は、思ったほど並んでいなかった。連れに言わせると、モレー、ルノアール、マネー、セザンヌと言った印象派の絵が多いらしい。そしてなんとミレーの「落ち葉拾い」と「晩鐘」があるらしいのだ。我が輩は、非常に喜んだ。数日前、「落ち穂拾い」の舞台を見た上に原画である。これは感動である。どうしてミレーの絵が好きかというと小学校時代に習ったフォスター作曲の「主は冷たい土の中」の挿絵がミレーの「晩鐘」だっ...
View Article小さな愛の行方 4
「おい、そんなところで油を売っていないで仕事につけ!」 シャベルで穴を掘っていた痩せた男が隆と義行に向かって叫んだ。 「さぁ、早く仕事につこうぜ。みんないい人なんだけれど口が悪いんだ」 「森さんもガラが悪くなっていますよ」隆と義行の仕事はシャベルで穴を掘る仕事でしかも単調な肉体労働だったので、かなり体に堪えた。隆は、何度も秋の空を仰ぎ、ため息をついた。空が赤く燃える頃、作業終了のサイレンが鳴った。...
View Article夢幻 ~パリ旅情~ エピローグ
凱旋門とシャンゼリゼ通りとくればエッフェル塔である。拙者達は再びバスに乗ってエッフェル塔に向かった。エッフェル塔には長蛇の列。何でも階によって料金が違うらしい。あまりにも長蛇の列なのでエッフェル塔に昇ることはあきらめた。しばらくエッフェル塔を見上げていた。そして再び嵐。本当にどうなっているんだ?とにもかくにもこうしてパリスの旅は終わった。目印であったオペラ座を見ていたらなんだかこの街が愛おしくなった...
View Article可憐な風景 ~オランダ・ベルギー~
21世紀になりました。海外旅行もヨーロッパ方面がずっと続いており,2001年は、オランダ・ベルギー方面という事になった。楽しみな街は、やっぱりアムステルダムである。アムステルダムは、運河の街で河の側に立つ中世を思わせる建物というイメージがありますが、60年代のヒッピーの拠点つまりドラッグ文化という裏の側面もある。なんてたってマリファナが合法なのだから信じられない!!そしてアンネ・フランクが隠れ家とし...
View Article可憐な風景 ~オランダ・ベルギー~ 2
ロンドンの現地時間午後3時にヒースロー空港に着いた。窓の外は暑い空気で覆われていて陰気な感じがした。ロンドンと言えば我輩にとってはビートルズである。夏になってジョージハリスンの脳腫瘍の件が発表され心配していたのである。我輩は、ビートルズの事を考えながらカフェで12時間ぶりに煙草を吸った。初めて煙草を吸ったときと同じようにくらっときた。その間「連れ」は、電卓を持って目を輝かせ免税店に行った。...
View Article小さな愛の行方 6
「おい、おまえら、何をしているんだ!」 「いや、煙草を切らしたから煙草を探していたんですよ」 義行が、後ろを振り向いたとき、高村の握り拳が義行の頬に炸裂した。 「何をするんだよ」 隆が、高村に飛び掛かったが軽く投げ飛ばされ、卓袱台がひっくり返った。その時1枚の写真がゆらゆらと高村の足下に落ちた。 「おっさん、その写真の娘は、あなたの娘さんですか」 隆が、よろよろと起きあがりながら高村を見上げた。...
View Article夢人島をめざして
誰もが夢に向かって小さな船を漕いでいる 夢が住んでいる夢人島に向かって 荒れ果てている海に手作りの船を出す 見送りのない港に青白い月が照らす 帆にはカシオペア座と北極星と北斗七星月明かりに照らされた 海は穏やかで静かだけれど 嵐が吹き荒れる夜だってあるだろう 岩にぶつかって座礁することもあるだろうそれでも夢の灯りを頼りに船を漕ぐのさ 早さを比べても意味などないそれよりも自分の夢人島に向かって...
View Article可憐な風景 ~オランダ・ベルギー~ 3
午後7時アムステルダムに到着しバスでハーグに向かった。なぜハーグかというと「連れ」がどうしてもデルフト焼きの工場を見たいというので妥協したのである。緯度が高いので午後7時でも昼のように明るい。アムステルダムの空気は、肌寒かった。気温は23度。日本で、33度以上の猛暑というひどい目にあっていたので気持ちよかった。それにしても7月の日本列島は言葉にできないくらい暑かった。それに比べればアムステルダムは天...
View Article小さな愛の行方 7
「娘さんと6年も会っていないんですか?」 隆が、高村のコップに酒を注ぎながら尋ねた。 「あぁ、全部俺が悪いんだ。俺に人を見る目さえあれば………」 「何があったんですか?」...
View Article可憐 ~オランダ・ベルギー~ 4
だんだんと天気は晴れていき風車が19基あるキンデルタイクに向かった。青空と風車と緑の草原。どことなくのんびりとした風景である。どこまでものんびりしている。ハウステンボスにはない風景である。ハウステンボスは、オランダの街の雰囲気は再現されているがこののんびりとした風情はない。一時異国のテーマパークが流行ったが歴史とのんびりした風景を再現することはできないような気がする。午後「連れ」と我輩は、ハーグの海...
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